1420s — NOW · ONE LAST QUESTION

タロットは、
何を映している
のだろう?

600年の旅を振り返り、カードの向こうに見えてきたものを考えます。

答えのない問いに、考えるための一枚を。

0111
SIX CENTURIES · COUNTLESS MEANINGS一枚のカードは、時代ごとに別の問いを受け止めてきた。

PROLOGUE · THE ROAD BEHIND US

第1回。私たちは、「タロットは、占いとして生まれたのではなかった」というところから旅を始めました。

15世紀のイタリア。人々はカードを配り、切り札を出し、勝ったり負けたりしていました。そこには、「あなたの未来を教えます」という目的はありませんでした。

タロットは、まず、遊ぶためのカードだったのです。

現在では、Warburg InstituteやMorgan Libraryの展覧会も、タロットの歴史を15世紀ルネサンス期のカードゲームから、占い、自己省察、芸術表現へと変化してきた約600年の歴史として紹介しています。[1][2]

あれから、ずいぶん遠くまで歩いてきました。今回は、600年の旅を、もう一度振り返ってみましょう。

そして最後に、一つだけ考えてみたいと思います。

これほど姿を変えながら、なぜ人は今もタロットを手に取るのでしょう。

01 · BEFORE DIVINATION

最初は、未来なんて
読んでいなかった

最初のタロットには、皇帝がいました。教皇がいました。恋人たちがいました。死がありました。星がありました。太陽がありました。世界がありました。そして、どこか不思議な、愚者がいました。

VISCONTI-SFORZA · c.145015世紀半ばのヴィスコンティ=スフォルツァ・タロット『愚者』

旅の始まりへ

まだ占いではなかった「愚者」

15世紀半ばのヴィスコンティ=スフォルツァ・タロット「愚者」。現在ではさまざまな意味で読まれるカードですが、この時代のタロットはまず、遊ぶためのカードでした。

Visconti-Sforza Tarot, The Fool, c.1450 / Public domain / Wikimedia Commons画像と権利表示を見る

でも、それらは最初から、現在のような占いの意味を持っていたわけではありません。当時の人々にとって身近だった、社会、宗教、道徳、運命、人生。そんなものを象徴する絵が、ゲームの切り札として並んでいました。

それでも、今から見ると少し不思議です。人生で出会うようなものが、もうそこにはたくさん描かれていました。権力。愛。変化。死。希望。成功。そして、人間にはどうにもできない運命。

まだ占いではなかった。でも、後の人々がそこへ意味を見つけたくなるだけのものは、すでにカードの中にあったのかもしれません。

02 · A FUTURE IN THE CARDS

そのカードに、
「未来」を見ようとした人がいた

18世紀。タロットを見る目が変わります。

クール・ド・ジェブランは、このカードの中に、古代から伝わった秘密が隠されているのではないかと考えました。その古代エジプト起源説に、現在では歴史的な根拠は認められていません。[5]

でも、彼の考えを読んだ人たちは、タロットを、ただのゲームとは違うものとして見るようになります。

そして、エッティラ。彼は、タロットを実際に占いへ使う体系を作っていきました。[4]

ゲームの結果を見るカード人間の未来を見るカード

ここで、タロットは大きく姿を変えました。

03 · THE INVISIBLE ORDER

「未来」だけでは
足りなかった

19世紀。エリファス・レヴィが登場します。

彼は、タロットを単に、「このカードが出たら、こういう未来になります」という道具だけでは見ませんでした。

カバラ文字数字宗教魔術

世界には、目に見えない何らかの秩序があり、さまざまな象徴は、その同じ世界を別の形で表しているのではないか。そんな思想の中へ、タロットを置きました。

本当に、世界の裏側にそんな仕組みがあるのでしょうか。それは、このシリーズでも答えを出しませんでした。歴史的に確認できることと、神秘思想として信じられたことは、分けて考えてきました。

でも、一つだけ確かなことがあります。人は、そのような世界があるかもしれないと考えた。そして、そこに魅力を感じた。

分からない世界を、少しでも分かりたい。目に見えないものへ、何か手がかりが欲しい。その願いが、タロットへ重ねられていきました。

04 · A WORLD BUILT TOGETHER

一人ではなく、みんなで
世界を組み立てる

そして、黄金の夜明け団。

19世紀の終わり、それまでの神秘思想を、組織の中で学び、体系化し、実践しようとした人々がいました。[6]

タロット。カバラ。占星術。錬金術。色。数字。文字。元素。一枚のカードが、さまざまな象徴へつながっていきます。

そこで学んだ人々の中に、アーサー・エドワード・ウェイトがいました。アレイスター・クロウリーもいました。

まだこの時点では、現在よく知られている二つのタロットはありません。でも、その種は、同じ場所にありました。

05 · HUMAN STORIES

そして、カードの中に
人間が入ってきた

1909年。ウェイトと、パメラ・コールマン・スミス。二人の仕事から、Rider-Waite-Smith Tarot、RWSが生まれます。[7][8]

ここで、第1回から何度も見てきた、「カップの5」を思い出してみましょう。

昔のカードには、カップが五つありました。それがRWSでは、一人の人間になります。

黒い衣。倒れた三つのカップ。残された二つのカップ。川。橋。遠くの建物。

RWS · 1909黒い衣の人物、倒れた三つのカップ、残された二つのカップが描かれたRWSのカップの5

数札から、人間の物語へ

RWSの「カップの5」

倒れた三つのカップ、まだ残る二つのカップ、橋の向こうの建物。数札だったカードに人間の物語が入り、見る人自身の経験を重ねられる絵になりました。

Pamela Colman Smith, Five of Cups, Rider-Waite-Smith Tarot (1909) / Public domain / Wikimedia Commons画像と権利表示を見る

カードを見ると、物語が始まります。何を失ったのだろう。なぜ、残った二つを見ていないのだろう。橋を渡る日は来るのだろうか。

そして気がつけば、カードの中の人物について考えていたはずなのに、いつの間にか、自分のことを考えている。

スミスが描いた78枚は、その後のタロット表現へ非常に大きな影響を与えました。現在開催中のMorgan Libraryの2026年展も、1909年のRWSを20世紀以降の芸術家たちへ続く重要な起点として扱っています。[2]

06 · ANOTHER BRANCH

でも、それが「正しいタロット」に
なったわけではなかった

同じ黄金の夜明け団の世界から、別の道へ進んだ人もいました。クロウリー。そして、フリーダ・ハリス。

二人が作った、トート・タロット。そこでは、人間の日常的な物語より、色、形、占星術、カバラ、魔術思想、さまざまな象徴が、一枚の中へ凝縮されています。[9]

RWSとトート。見た目は、まるで違います。でも、どちらも、同じ歴史から枝分かれして生まれました。

Warburg Instituteが2025年に開いた600年史の展覧会でも、15世紀のカードからRWS、クロウリーとハリスのトート、そして現代作品までが、一続きの「変容の歴史」として紹介されました。[1]

ここまで来ると、もう、「タロットはこうでなければならない」とは、なかなか言えなくなります。

07 · SURVIVING BY CHANGING

タロットは、
ずっと変わってきた

遊び→占い→神秘思想→物語→現在

遊びだったものが、占いになった。占いだったものが、神秘思想と結びついた。数だけだったカードに、物語が描かれた。同じ象徴が、別の思想によって描き直された。

そして現在。何千というデッキが作られています。古典的なもの。幻想的なもの。現代的なもの。動物のもの。特定の文化を背景にしたもの。抽象的なもの。そして、猫のタロットだってあります。

でも、これはタロットが壊れてしまった歴史ではありません。むしろ逆なのかもしれません。

変わることができたから、600年間生き残ることができた。

それぞれの時代の人が、自分たちに分かる言葉で、カードを描き直した。自分たちが必要としている問いを、そこへ持ち込んだ。その繰り返しが、現在まで続いています。

08 · DOES IT KNOW THE FUTURE?

では、タロットは本当に
未来を教えてくれるの?

600年の旅を終える前に、この問いから逃げずに、もう一度向き合ってみましょう。

タロットには、本当に未来を知る力があるのでしょうか。カードを引いたとき、そこには、何か見えない力が働いているのでしょうか。それとも、全部、偶然なのでしょうか。

このシリーズでは、「ある」とも、「ない」とも言いませんでした。

少なくとも、超自然的な力によって未来を予知できることが、科学的に確立されているわけではありません。

一方で、カードを見た人が、そこから何かを考えることはできます。思い出す。連想する。自分へ重ねる。違う可能性を想像する。「本当は自分はどうしたいんだろう」と考える。

その心の動きを、全部、「ただの偶然だから無意味だ」としてしまう必要もないでしょう。

09 · THE GIFT OF CHANCE

偶然だからこそ、
出会える考えもある

いつも自分だけで考えていると、どうしても、同じところをぐるぐる回ることがあります。

自分が知っていること。自分が怖がっていること。自分が最初から正しいと思っていること。その中だけで、答えを探してしまう。

そこで、一枚、ランダムなカードを引く。自分なら選ばなかったものが、目の前へ出てくる。「どうしてこのカードなんだろう」と考える。

すると、それまで考えなかった方向へ、少しだけ思考が動くことがあります。

カードが答えを知っていたのか。自分がカードから答えを作ったのか。それは、分かりません。

その一枚がなければ考えなかったこと

に出会うことはあります。

それだけでも、タロットを使う理由の一つにはなるのではないでしょうか。

「当てる」だけが、タロットではない

もちろん、未来を占いたくなることもあります。明日、どうなるだろう。この恋は、どうなるだろう。仕事は。家族は。自分は。

それは、とても人間らしい願いです。何百年前の人も、同じように、未来を知りたいと思いました。だから、占うこと自体を、否定する必要はありません。

ただ、一枚のカードから受け取れるものは、「未来はこうなる」だけではありません。

「自分は、こうなることを望んでいたんだ」「本当は、これが怖かったんだ」「別の見方もあるかもしれない」

未来を見ようとして引いたカードが、現在の自分を映すことがあります。

10 · MIRROR, WINDOW, QUESTION

では、タロットは
「心を映す鏡」なの?

よく使われる表現です。タロットは、心を映す鏡。確かに、とても分かりやすい言葉です。

でも、それだけでも少し足りない気がします。鏡なら、そこにあるものを、そのまま映します。

タロットは、むしろ、自分にはなかったものまで、こちらへ投げ返してくることがあります。「こんな見方をしたことはなかった」というものです。

MIRROR鏡

今の自分を映す

WINDOW窓

別の景色を見せる

QUESTION相手

問いを返してくる

だから、鏡でもあり、窓でもあり、問いかけてくる相手でもある。そんな、少し変わった道具なのかもしれません。

11 · THE CARDS DO NOT COMMAND

カードは、何も命令しない

そして、これは大切にしたいところです。

「死神が出たから終わらせなければならない」

「恋人たちが出たから、この人とは運命の相手だ」

「塔が出たから、悪いことが起きる」

そうやって、カードに人生を決めてもらう必要はありません。

600年間、カードへ意味を与えてきたのは、結局、人間でした。カードは、考える材料を差し出すことはできます。

でも、その意味をどう受け取るか。何を選ぶか。どう生きるか。最後に決めるのは、カードではありません。

あなたです。

だからこそ、タロットを、怖がる必要もないのでしょう。

12 · LEAVE SOME MYSTERY

それでも、
不思議を残しておく

でも、全部を説明して、きれいに片づけてしまう必要もないと思います。

どうして、今日、この問いで、このカードだったのだろう。不思議なくらい、今の自分に重なることがあります。

偶然なのでしょう。そうかもしれません。何か意味があるのでしょう。そうかもしれません。分からない。それでいい。

もし、この世界に、私たちにはまだ見えない大きな流れがあるのなら、その中には、カードをシャッフルした自分の手も、偶然引いた一枚も、それを見て考えたことも、全部含まれているのでしょう。

逆に、そんなものが何もなく、ただ偶然に一枚を引いただけだったとしても、そこから考えたことまで、偽物になるわけではありません。

どちらであっても、私たちはその一枚から何かを考えることができます。

そこには、タロットを楽しむための、十分な余白があります。

13 · HANDS ACROSS SIX CENTURIES

600年間、
カードを手にした人たち

この旅では、いろいろな人に出会いました。

15C名前の残っていない、15世紀のカード職人や遊び手たち。

1781カードに古代の秘密を見た、クール・ド・ジェブラン。

1780s占いとして体系化した、エッティラ。

19C世界の見えない秩序を探した、エリファス・レヴィ。

1888神秘思想を学ぶ場所を作った、黄金の夜明け団の人々。

1909根拠の薄い伝説を批判しながら、象徴の奥に何かを求めた、アーサー・ウェイト。

1909その象徴を、人間の物語へ変えた、パメラ・コールマン・スミス。

20C別の魔術思想へ進んだ、アレイスター・クロウリー。

20Cその世界を、色と形にした、フリーダ・ハリス。

みんな、同じタロットを見ていたわけではありません。同じことを信じていたわけでもありません。中には、互いに強く対立した人もいました。

でも、その違いまで含めて、今のタロットがあります。

600年間カードが生き残った理由を追っていたはずなのに、最後まで歩いてみると、私たちが見ていたのは、カードの歴史だけではなかったのかもしれません。

分からない世界を、それでも理解しようとしてきた人間の歴史。そんなものも、一緒に見ていたように思います。

14 · WHAT DOES TAROT REFLECT?

タロットは、
何を映しているのだろう?

最初の問いへ戻りましょう。タロットは、何を映しているのでしょう。

未来?運命?見えない仕組み?無意識?今の自分?

たぶん、この問いにも、一つの答えはありません。タロットには、600年間、あまりにも多くのものが重ねられてきました。

だから、最後に一つだけ、こう考えてみたいと思います。

分からないから、カードを引く。カードを見る。考える。そして、また自分へ戻ってくる。

カードの中に答えがあったのか。自分の中に最初からあったのか。それも、分からない。

でも、引く前とは、ほんの少し違うところに立っている。それで十分なときもあります。

EPILOGUE · YOUR CARD

そして、あなたの一枚へ

600年前。誰かが、一枚のカードを手に取りました。

その人の名前は、もう分かりません。何を思っていたのかも、分かりません。でも、カードは残りました。

描き替えられ、意味を変え、海を渡り、何度も印刷され、たくさんの人の手を通って、今、私たちのところまで来ています。

NTTAROT · NOWNTTarotで猫のタロット『恋人たち』を一枚ずつ眺めている画面

600年後の、一枚

スマートフォンの中へ続いたタロット

600年前から何度も描き替えられてきたタロットは、今ではスマートフォンの中でも引けるようになりました。形が変わっても、一枚を見て、そこから考えるという時間は続いています。

NTTarot production interface and Cat Tarot artwork / NTTarot-owned assetNTTarotでカードを引く

次にカードを引くのは、私たちです。

その一枚が、未来を教えてくれるかどうかは、分かりません。でも、まだ自分でも言葉にできていなかった何かを、考えるきっかけにはなるかもしれません。

だから、分からないことがあるとき。答えが見つからないとき。無理に正解を出す前に、一枚、引いてみてもいい。

答えのない問いに、
考えるための一枚を。

これで、
「タロットの600年を歩く」
おしまいです。

REFERENCES & IMAGE RIGHTS

参考文献・参照資料

本シリーズでは、歴史的事実と後世の神秘思想・伝承をできるだけ分けて扱うため、美術館・図書館・大学出版局などの資料を中心に参照しています。掲載した歴史画像はパブリックドメイン、最後の画面画像はNTTarotの制作資産です。

  1. 1

    The Warburg Institute

    “Tarot: Origins & Afterlives”およびビル・シャーマン館長へのインタビュー――ルネサンスのゲームから占い、自己省察、芸術表現へ続く歴史展覧会資料を見る
  2. 2

    The Morgan Library & Museum

    “Tarot! Renaissance Symbols, Modern Visions”――ルネサンス期の起源、ヴィスコンティ=スフォルツァ、RWSと現代美術展覧会資料を見る
  3. 3

    Victoria and Albert Museum

    “A history of tarot cards”――ゲームから神秘思想、RWS、現代の再解釈までの通史解説を読む
  4. 4

    Bibliothèque nationale de France

    エッティラ『タロットと呼ばれるカード遊びによる気晴らしの方法』(1783)書誌記録書誌情報を見る
  5. 5

    French Ministry of Armed Forces Digital Library

    クール・ド・ジェブラン『原始世界』書誌・デジタル資料資料を見る
  6. 6

    Cambridge University Press

    “The Golden Dawn and the O.T.O.”――西洋儀式魔術の研究と実践を組織化した黄金の夜明け団章情報を見る
  7. 7

    Arthur Edward Waite

    The Pictorial Key to the Tarot(1911)――RWSの象徴と占義に関する一次資料全文を読む
  8. 8

    The Morgan Library & Museum

    “Pamela Colman Smith before Waite”――RWS以前のスミスの芸術活動と英国神秘主義との接点展示解説を見る
  9. 9

    Oxford University Press

    Deja Whitehouse, The Lady and the Beast――フリーダ・ハリスとアレイスター・クロウリーの共同制作書籍情報を見る
  10. 10

    Wikimedia Commons

    ヴィスコンティ=スフォルツァ・タロット「愚者」、15世紀半ば――パブリックドメイン画像と権利表示を見る
  11. 11

    Wikimedia Commons

    パメラ・コールマン・スミス「カップの5」、RWS(1909)――パブリックドメイン画像と権利表示を見る
  12. 12

    NTTarot

    カード詳細画面と猫のタロット「恋人たち」――NTTarot制作資産アプリを開く